310. 太平洋生物学研究所(リケッツ研究所)

作家のジョン・スタインベック(John Steinbeck)は、その作品のいくつかにドック(Doc)と呼ばれる人物を登場させていますが、その中でも、『キャナリー・ロウ(Cannery Row)』とその続編である『楽しい木曜日(Sweet Thursday)』に登場するドックは伝説的人物です。優しくて思いやるのあるドックのキャラクターは、スタインベックの親友であったエドワード・F・リケッツ(Edward F. Ricketts)がモデルです。この「本物のドック」は、海洋生物学者であり、初期のエコロジーの提唱者であり、また、思索的な著者でした。リケッツは、学校、カレッジ、大学、博物館に生物学の被験物を提供する会社である、太平洋生物学研究所を(Pacific Biological Laboratories)を設立しました。 リケッツが真に情熱を感じていた対象は海洋研究で、友人のジャック・カルビン(Jack Calvin )とともに、潮だまり(引き潮の際に岩場に出来る水たまり)に関する有名な研究を1939年に出版しました。この本は「太平洋の潮の満ち引きの間(Between Pacific Tides)」というタイトルで、60年間、この分野の研究者と科学者にとって最も権威を持つ学術書であり続けました。 1940年、リケッツとスタインベックは、ウェスタン・フライヤー(Western Flyer)船に乗って、メキシコ湾を科学的に探求する旅に出ます。この旅は後に『コルテスの海 航海日誌(The Log of the Sea of Cortez)』として出版されました。二人の共著であり、スタインベックの初のノンフィクションです。 リケッツの1948年の若すぎる死後、ハーレン・ワトキンズ(Harlan Watkins )という地元の高校教師が研究所を借り、1956年に購入。有名なアーティスト、音楽家、漫画家らを始めとする友人たちが集まり、「LAB」グループを結成しました。そして、この研究所は人が会ったり、パーティーを開催したり、関心ごとを話し合うカジュアルな場となります。 グループの仲間たちはいずれもジャズ愛好家で、1957年にはジャズラジオ局のアナウンサー、ジミー・ライオンズ(Jimmy Lyons)を招待しました。そして、ライオンズが総指揮者となり、35年間開催された世界的に知られるモントレー・ジャズ・フェスティバル(Monterey Jazz Festival )のアイデアがここで生まれました。 今ご覧になっているシンプルな木材面の建物は、火災で倒壊した建物をリケッツが1937年に再建築したものからほとんど変わっていません。建物とホテル・クレメント(Hotel Clement)の間の歩道を歩くと、リケッツが作業で使っていた被験物タンクを見ることができます